てんかんについて
てんかんは古くから知られる病気であり、日本では約100万人の患者様がいると推定されています。これはおよそ、100人に1人の割合で、だれでもかかる可能性のあるものです。数百億とも言われる大脳の神経細胞(ニューロン)は、通常、調和を保ちながら規則正しい電気活動(電気発射)をしていますが、突然、激しい電気活動(ニューロンの過剰な放電)が起こると、「てんかん発作」が引き起こされます。この発作を繰り返し起こすことが「てんかん」の特徴です。
てんかんには、大きく分けて「特発性てんかん」と「症候性てんかん」があります。「特発性てんかん」は原因が不明のてんかんで、「症候性てんかん」は生まれたときの仮死状態や低酸素、脳炎、髄膜炎、脳卒中(脳出血・脳梗塞)、頭部外傷、アルツハイマー病など、脳に明らかな障害があることによって起こるものです。乳幼児から、小児、学童、思春期、成人、高齢者のすべての年代で発症しますが、小児と高齢者で発症率が高く、80%は18歳以前に発病すると言われ、また高齢化に伴う脳卒中などが原因となる高齢者の発症も増えています。
てんかんの症状として「てんかん発作」がありますが、この「てんかん発作」は「部分発作」と「全般発作」に分かれます。
部分発作
脳の一部分から始まる発作で、チカチカとした光が見えたり、ビクビクと手が動いたりといった、患者様自身が感じる様々な症状が現れます。さらに電気発射が続くと、意識に障害が現れ、発作の間、周囲の状況が分からなくなります。ある一点を凝視して、動作が止まり、話しかけても応答がなくなるなどの症状(欠神発作)が出現することもあります。電気発射が脳全体に広がると、全身のけいれん発作に至ります。
全般発作
左右の脳全体で一気に電気発射による発作が起きるものです。当初から意識がなくなるのが特徴で、突然体の力が抜けてバタンと倒れる脱力発作や、体が一瞬ビクンと動く発作、呼びかけに応じなくなる欠神発作、全身のけいれん発作などもみられます。
てんかんの治療
てんかんの治療にあたっては、まずその発作が、てんかんによるものであるかどうか、検査をし、確定する必要があります。他に治療が必要な疾患が無いかどうかを見極めた上、薬物治療などの長期にわたる治療方針を考えていきます。
てんかんの検査としては、過剰な電気発射の状態を調べる脳波検査を中心に、脳腫瘍などの疑いをみるCTやMRIによる脳の画像診断、代謝異常や脳炎の有無を調べるための血液検査や尿検査等を行います。血液検査や尿検査は、治療開始後も薬の量を決めるため、薬の成分の血中濃度を調べるためにも実施します。
てんかんの治療として中心になるのは、「抗てんかん薬」による治療です。抗てんかん薬には現在、多くの種類があり、近年では副作用が少ない薬も開発されています。薬の使用に際しては、患者様のてんかんが、どのようなタイプのものかを正確に判断し、それに合わせて薬を組み合わせていくことが大変重要になります。
- 抗てんかん薬の副作用としては、眠気やふらつき、またアレルギー反応として発疹が出る場合があります。また長期服用によって、肝機能の低下や白血球の減少、歯肉増殖、多毛、脱毛を認める薬があります。新規抗てんかん薬はこれらの副作用を起こしにくくしていることが特徴です。
重症度合いにもよりますが、薬物療法を適切に行うことによって、発作が出ないようにする、あるいは回数を減少させることが可能です。そうなれば、医師の判断で徐々に薬の量を減らし、最終的に薬を中止しても発作が起きなくなれば、てんかんが治癒したということができます。ただし再発するケースもありますので、投薬中止後も定期的に脳波検査を受けることをおすすめしています。
薬物療法で効果が得られなかった場合は、外科療法や迷走神経刺激療法、「ケトン食事療法」などの治療を考慮します。こういった治療法も患者様のてんかんのタイプや重症度合い、あるいは年齢などによって、実施の可否や実施方法などが異なりますので、丁寧に診断し、患者様とも相談の上、決定していきます。外科療法や迷走神経刺激療法については、対応できる医療機関と連携して行っていきます。
てんかんは、発作が起こっている時間は短く、それ以外は通常の社会生活を送ることが可能です。周囲が良く理解し、サポートしていくことも、てんかんという病気のケアでは大切になります。小児では就学に際して、また成人では就労や自動車免許の取得、女性では妊娠・出産など、様々なサポートが必要となります。当クリニックでは、患者様の様々なお悩みに関して相談に乗り、医療面からのアプローチを行うとともに、福祉とも連携し、てんかんの患者様がより安心して充実した生活を送れるよう、サポートしていきます。